社会人少年漫画賞:結果発表

 

ジャンプ史上初、社会人経験のある作家さん限定「社会人少年漫画賞」の結果を大発表!最終候補全5本のうち、佳作2本選出となりました!

※社会人少年漫画賞についてくわしくはこちら

確かな才能がここに!佳作の2作はこちら!


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「実験動物人魚」

和田達磨(23)

審査員コメント

篠原健太 先生

非常に才能を感じます。プロの作画家に描き直してもらえばそのまま商業作品になりそうですね。登場人物のキャラがしっかりあるので好感を持って読め進められます。科学的なディティールの描写もあって作りも丁寧。何よりコマ運びのリズムを理解してるのは強いです。

附田祐斗 先生

語り口が淡々として心地よく、読み手の興味も持続できている。ハッピーエンド感も良。終盤、主人公の葛藤をもう一歩深めるか、あるいはこの男だからこその決断が用意できると物語が締まると思われます。人魚の感情の移り変わりももう一歩メリハリが欲しい。

白井カイウ 先生

p1、1コマ目、最初の1行がその後の読解を圧倒的に阻んでいる。他は完璧。ここだけ。ただ、その”ここだけ”が致命的な壁である気はするので、危機感を抱いてほしい。他は本当に良かった。人物の心情、変化、絆、それを描出する夢や挿話、ラストも、全部が素晴らしかった。

甲本一 先生

個人的にはすごくドツボでした。世界平和と好きな子どっち取るかってそりゃ好きな子取りてぇんだ。分かる。そういう人生がいい。そういう人生がいいを擬似体験させてくれるのがエンタメ。キャラクターの心情の変化もいいし表情も非常に好。キュンでーす。


キャリアアドバイス

さらに社会人少年漫画賞では、最終候補以上の作品に、作家さんの状況に合わせたキャリアアドバイスを進呈!伸ばすべきスキルやおすすめの本など、ここでしか得られない貴重なアドバイスだ!

篠原健太 先生

お仕事されながらの執筆で制作時間が限られているそうですが、年齢も若いのであせらず力をつけて欲しいです。まず何より画力アップ。イラストを量産するよりネームを丁寧に描く事で絵を上達させる方法を勧めます。

附田祐斗 先生

動物実験というのは、確かに漫画のテーマとして企画性が高いですね。超リアル路線、ファンタジーっぽいエンタメ路線、あるいは極端にエグくしたディストピア路線などもありえそう。キャラいじりの細部に可能性を感じるので(21p、主人公が首から上だけで謝罪するコマとか!良いです)自分にあう方向性を色々模索して欲しいです。(何なら描く媒体によって使い分けてもいいし)キャラの感情のメリハリを構成に絡められると強みをもっと活かせると思います。今作でいうと、エリヤが心を開いていく工程を起承転結に落とし込めると良さそう。

白井カイウ 先生

「最初の数ページへの執心と意識」だけ。私がどうあの冒頭の情報処理に困ったかは、別紙に詳細記述した。参考になれば幸い、「ボールは1つずつ」みたいなイメージで目と基準を更新いただけたら幸いです。今回は最初の1行を取るのみで全解決と思うが、次作以降、読者の目に最初に入る情報、それは絵か台詞か、その第一声/景、それでいいか最善か、常に意識いただけたらよきかと。

甲本一 先生

2年で仕事しながらこれはすごいかも・・・でも才能あっても日の目を浴びるかわからない世界。どうしても企画や時代に左右されるので。自分の場合達磨さんみたいにちゃんとしたとこに就職してるのなら勝負の時まで二足の草鞋で頑張るかも・・・!


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「パラレルJKこなつ」

葛城大工(34)

審査員コメント

篠原健太 先生

最後まで読むと非常に優れたSF作品でした。中盤からの展開には目を見張るものがあります。導入の世界観の説明をもっと明快に出来れば主人公を追いやすくなると思います。性格の違う3人が同じ部分を持つ嬉しさや、仲良くなったシーンを描いてから中盤に入るともっと良いと思いました。情報を整理して会話だけのコマを減らし、代わりに大きなコマを意識出来ればぐっと品質が上がります。

附田祐斗 先生

設定が面白いし説明の並べ方も無駄がなく、開幕5pで完全に引き込まれた。人物の感情も自然に追えた。読後感もいい。ラストの主人公の決意シーン、演出の仕方を凝ると更に感動できるかも

白井カイウ 先生

絵がうまい。特に人物の表情が良かった。ただ、序盤の読みづらさは読者の脱落を招くので、殊に気を配ってほしい。物語は面白く、要素やアイディアが素晴らしかった!ただそれが最大値で出せているかというと、コマ割りなどネームの洗練はまだもっとできると思う。

甲本一 先生

絵も上手いし構成もいいしとてもまとまってていいと思いました!普通にディストピアものになると思ったらいい話でほっこり。キャラクター各々の強みが出て物事を解決するのはいいですねやっぱ。スポーツものとか見てみたいですね。


キャリアアドバイス

篠原健太 先生

派手さよりも地道で積み重ねるような作風なので青年誌も合うかもしれません。前の職業そのままの設定でなくても、知識や経験をスライドして使う意識を持てばお仕事漫画など描けそうな力を感じます。

附田祐斗 先生

人物の全身や引きの構図を丁寧に描いてる点も好感を持てたし読みやすかったです。世界設定をストーリーに絡めるのが上手な作家さんだと思います。読切としてまとめる力もある。次はより主人公のキャラ性に軸を置いた作品を読みたいです。

白井カイウ 先生

同じ話や脚本でも、より派手に見せるコマ割りを研究してほしい。そして自分だけの正解を見つけてほしい。好きな漫画のコマ割りを見て学ぶ、でいい。模写もアリ。「めくりとまたぎ」にもっと執心を。大事な感情や大事な情報は、目立つ位置に派手に入れてみて。コマ割り以外では、「序盤の読みやすさ」と「説明ターンの簡潔化」も課題としてご留意をいただけたら。

甲本一 先生

ニッチな職業経験の知識を活かした漫画を描くなら青年誌とかもありですね。この読み切りの路線のまま行くのであれば自分の強みが出る分野で読者受け良さそうなモチーフを探すのが一番いいと思います!

次回作への期待大!
最終候補3本!


「あさなぎ、」

沙都ぽんみ

音楽を辞め仕事を転々とする佐藤。ある日、近所の子供達から僕らのバンドに入ってくれとお願いをされて…?

審査員コメント

篠原健太 先生

筆のような独特の描線は良く言えば個性的ですがコマ漫画としては少々読みづらく損かもしれません。ストーリーの大半を占める主人公が審査員にキレるシーンは、その主張に賛同できないためそれ以降気持ちが剥がれてしまいました。未来へ繋がるような爽やかな終わり方は好感が持てます。

附田祐斗 先生

子供らとのワイワイした掛け合いが楽しいです。クライマックス、語り以外にも主人公の行動がもう一つあると良かった。主人公が子供らと心を通わせていくページももっと欲しい。そのためにも構成をもう少し整理したい。

白井カイウ 先生

絵がうまい。特に子どもが愛らしくて良かった。話も悪くない、ドラマもある。でも全体として地味に感じもした。見せ方を派手にしてほしい。台詞準拠で最低限の芝居を付けた絵と画面になっている感も勿体ない。人物の感情の描出手段を台詞のみにせず、動きでも見せるといいと思う。

甲本一 先生

腐ってた主人公が自分の熱い部分を吐露するのはとてもええんや。全体的な流れもいいしキャラクターも描けてる。絵もかわいいし上手いしオチもいいですね。個人的には本気の絵も見たいかも!


キャリアアドバイス

篠原健太 先生

キャラの可愛さや場面の作り方には実力を感じます。絵柄が牧歌的なので鬱屈した話より明るく可愛い漫画が似合いそう。カメラアングルを変えながらキャラも背景も丁寧に作画する経験を積めばすぐにスキルアップすると思います。

附田祐斗 先生

主人公の活かし方が改良されると全体も更に良くなると思いました。大石賢一先生の書籍「マンガ原作の書き方」の序盤”主人公とは何だ”の項目がかなり分かりやすいのでオススメです。語りシーンは熱いが少し唐突にも感じた。(審査員と何らかの繋がりがあったという流れにすると自然かも?いや蛇足ですねそれは)

白井カイウ 先生

「感情の描出としての動き」の研究を。まず、映画『君の名は。』で3回の転ぶシーンを確認してみてください。他の映画や漫画でもそういうシーンがないか留意して見てみて。そして、自分の漫画で取り入れてください。このキャラのこの感情・思いなら、こう動く、その時の動作はきっとこうだ、これが一番読者の感情を動かす、などの思考訓練も。そういう「動きの芝居」や「動きでのシーンづくり」を是非。

甲本一 先生

同じようなエンタメの業界ならいろんなこと経験して損はなさそうって思いました。一回漫画描いて一攫千金狙うのもあり!


「さっちゃんが呼んでる」

西田夏未

気付くと眼前で人が死んでいる。そんな体験を繰り返す「ちいちゃん」は自分の犯行を疑い恋人に相談するが…。

審査員コメント

篠原健太 先生

漫画制作歴が長い事もあって画力が高く読みやすいです。事件の顛末が想像の範囲内で淡々と進行するので、謎を謎として興味を引く工夫が必要です。序盤でキャラの特徴や関係性を描く意識を持つと良いと思います。

附田祐斗 先生

ツカミがグッド。ラスト付近の恐怖演出が特に良かった。ストーリーの各段階で驚きや工夫が用意されていて、飽きずに読むことができた。絵のタッチや表情も味があるので、人物ごとの描き分けが出来るともっといいです。追伸:ちいちゃんが先輩男子らに何故セクハラされてるかの理由に少しでも触れると良かったかも。(押しに弱く反論が苦手とか?アハハと人の話に何でも合わせちゃう質とか?)

白井カイウ 先生

導入の引力が随一。種明かしからラストまではもっとできる。私としては、さっちゃんの感情を足して見せてほしいと思った。今出来事や展開にのみ面白さを見ていて、そこだけを繋いだ作劇の印象を受けるので、人や感情で物語をつくれば、作劇面は格段に向上すると思う。

甲本一 先生

展開で押す漫画にしては少し説明が少ない気がしました。演出の前振りが十分じゃないからそう感じるんですかね。でも女の子の絵に独特の魅力があって自分の世界観も持ってそうだし作画志望であれば頑張れる気がします!


キャリアアドバイス

篠原健太 先生

現在は全日制作に費やせるとの事ですが、量を生産するよりも、一度自分のマックスの丁寧さで描いた最高品質の原稿を作ってみてはどうでしょう。次回からは自然とそれが品質の最低基準になります。作画を武器にできれば作画担当としてプロになる道も開けます。

附田祐斗 先生

思春期の人物が妖怪じみた落ち着きをしてる所に、乙一先生の「GOTH」の空気を感じました。未読でしたらオススメです!画風的に、このままホラーやシリアスの作風でもいいですが、例えば別の原作をつけてコメディや日常路線やってみるなんて方向もアリかと思いました。

白井カイウ 先生

「感情の爆発」を描く練習を。どんな感情でもいいので、人間の感情に目を向けて、物語の一番の山場でその感情が爆発する話をつくる。そしてその感情をどんな絵で魅せるか、どう描いたら最大値で見せられるか、描写や、絵の演出を探ってほしい。そして、そのためにも「人物の掘り下げ」を。吾峠先生がファンブックの2巻で仰っていた「なんでマン」、を心に置くのも良いと思う。

甲本一 先生

作画志望であれば画塾に通ってデッサン学ぶのはどうでしょう。後画面のオリジナリティみたいなのも必要な気がするんでデザインの勉強もいいかもしれません。こだわりがなければ作画志望一本に絞るのもいい作戦だと思います。


「世界の終わりにいつまでも」

神楽美早

死んだ息子のクローンを生み出した天才科学者のデジー。しかし、息子の体には大きな変化が生まれており…?

審査員コメント

篠原健太 先生

キャラの絵は達者で可愛いですが少々古いです。ネームは会話をそのまま出力してるような印象で淡々としてるのが弱点だと思います。展開が唐突でついていけないので、読者がどう感じるかを常に意識してください。

附田祐斗 先生

女性キャラの表情が可愛い。視点キャラはこの人物に絞った方が、主役のミステリアスさが強まったかも。情報の出し方を整理したらもっとハラハラできそう。ラストに解決があるのは良かったので、もう少し尺をとって演出しても素敵。

白井カイウ 先生

絵がうまい。p3までとても読みづらかったため、重要な情報とそうでない情報を選り分けて、再度検討すると良いと思う。ラストは「これで終わり?」と思った。自分が届けたい「面白さ」が何なのか明確にして、そこからブレないネームづくり、その練習を重ねると良いと思う。

甲本一 先生

男の子はみんな隕石を止めたいし、世界を救いたい。できれば授業中にテロリストが入ってきてそれを制圧したいし、それで好きな子を救いたい。そういう漫画でした。最後の別れとなる部分に感情移入できるよう触れ合いを書くのも丁寧ですごくよかったです。


キャリアアドバイス

篠原健太 先生

職業なのか趣味なのかSFの知識が豊富そうです。ただしうまく描かないと読者を離れさせる要因にもなり得ます。まずは一人のキャラの視点で感情と行動を丁寧に追っていく構成で、なるべく短い漫画をたくさん描く事をお勧めします。

附田祐斗 先生

絵柄がコロコロと可愛いので、逆に何かエグい話を描いて欲しくなったりしました。現状だと「SF」と「ファミリードラマ」のバランスが同等になってしまってるように感じたので、読切ではどちらか一つに比重を置いた方が起承転結がスッキリしたかと思います。自分の好みや描きやすい方はどっちだろう?と模索してみると良きです!キャリアアドバイスとは別になりますが、タクトの存在感をもっと強調するために、特に序盤は「何を考えてるか分からない、危険な感じ」を押し出しても良かったかも。(そうすると段々心を開いていく過程がより愛おしくなる)キャラの行動原理や執着ももっと表現できると良いかもです。例えば「クローンタクトは天才として目覚めたが、デジーはそれについて葛藤はないのか?(前のタクトと違う…!とショックを受けたりしないのか?)」とか「12pでタクトが発熱したシーン、デジーは心配でしょうがないのでは?(リディに促されてやっと出発するとかにすると、執着とキャラのベクトルがより出る)」などなど。とはいえ家族3人ホッコリ感も良いので、その空気感を壊さない程度にツッコミやフォローするくらいでもOKかもですが。

白井カイウ 先生

「31Pか45Pで、必ず完結する話をつくる」という練習が私は良いと思う。古のジャンプの(月例賞)投稿基準そのものですが。絶対このページで終わらせなければならない、その中で届けたい面白さや思いを伝えきらなければいけない、ブレている余裕の尺もない、情報の取捨や洗練が不可避な尺。31か45、かなりベストな数字なんですよね、改めて。私はそれでめちゃくちゃ鍛わったので。是非。

甲本一 先生

個人的にはすごく好きな感じなんですけど、the少年漫画みたいなのをこの時代にやろうとすると割と修羅の道なイメージがあります。この感じで漫画家として生計を立てようと思うと媒体選びはかなり重要かなと思います。

 

総評

これまでのジャンプの新人漫画賞に比べて異質な作品が多く集まった。特に最終候補に残った5作品は、作者の人生経験を活かしつつ、どれもまとまった構成だった。ただ読者を楽しませる意識は更に持ってほしい。キャラを描きつつ、そこに重心があった2作が今回は佳作受賞となった。

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