東
お久しぶりです!連載終了から少し経ちましたが、最近はどんなことされてるんですか?
古舘
先生
バイオハザード…ですね。
東
………だけですか!?
古舘
先生
もちろんそんなことは無いです(笑)。でも、シリーズを制覇しようとしてます!
東
連載終了後だからこそできることですね!今回は漫画賞サイト用のインタビューで、新人作家さん向けにマンガの話をしていただきたいと思っています。37巻から最終回まで古舘先生を担当して色々学ばせていただいたんですが、特に取材のやり方が新人作家さんの参考になりそうだなと思ったんです。
古舘
先生
自分の場合、大きくわけて2パターンですね。「この先にあるエピソードを描くために、こういう話を絶対に聞かなきゃ」という時。たとえばビーチバレーはこのパターンですね。あとは「なんでもいいから話を聞いてくる」パターン。
東
毎年行っている春高バレーの取材でも、資料写真を撮りに行ったら偶然相馬高校の太鼓部さんに遭遇したこともありましたよね。
古舘
先生
そうですね、お客さんとして観戦していたらたまたま。
東
その場で予期していなかったことが、結果として作中の「烏野太鼓」に繋がったんですよね。取材時には思ってもみなかったことが、本編に反映されたようなエピソードって他にもありましたか?
古舘
先生
猫又先生の「バレーボールに入りやすくするためにネットを下げる」というエピソードは、取材先で聞いた話がもとです。バレーボール教室で「高さは気にしなくていいから、ネットを下げてアタックを小さい子にも打ってもらうようにしている」という話を聞いて、使わせてもらってます。
あとはガイドブック『排球極!』にも載せましたけど、東亜学園さんに取材した時に聞いた「全国大会で優勝するような強豪でも月曜日はオフ」という話。強豪は練習を毎日やるものだと思っていたんですけど、「休息とサボりは違う、休み方の意識による」という話が印象的で。
東
及川の名言ですね。
古舘
先生
これも青葉城西のルールとして、そのまま使わせてもらいました。
東
取材で「とにかく話聞いてこよう」という時と、ビーチバレーのように「具体的に聞きたいことがある」時の取材では、準備としてはどう違うんですか?
古舘
先生
実はそんなに違わないんですよね。取材に行く前は「あれとこれは聞かなきゃ」って心構えはしますけど、どちらにしても他に何を聞けばいいのかわからないので。とりあえず、その少ない情報から聞くことを決めておいて、あとはその場の流れです。
東
取材でブラジルに行った時に古舘先生って「これだけは聞こう」と決めていくことがそんなに多くないんだな、と思いました。先生に「ほかに聞くことはあります?」って話を振っても「まあ、こんなもので」ということが多くて。 普通、「リアリティのあるものを描こう」と思って取材に行くと、質問項目をガチガチに固めてしまう方のほうが多いと思うんですよ。
古舘
先生
他誌の編集さんが「雑談が大事」ってテレビで言ってました(笑)。あとは「漫画は1話目でどこにたどり着くかを言わないとダメだよ」とも言ってて。だからハイキュー!!は1話目で日向が影山に「お前より長くコートに立つ」って宣言して、日向が影山に勝とうとする話なんです。
東
そうですね。でもそんな役に立つ話したら、みんな他誌に原稿を持って行っちゃうじゃないですか(笑)! ちなみにVリーグの取材にも行きましたが、どんなところに注目されてましたか?
古舘
先生
試合の時は、「テレビで映らない部分」ですね。サーブ前のルーティンとか、映像ではなかなか全体は映らないので。
東
これからバレー漫画を描く人に伝えたいことですね。取材の前に、テレビの中継などを見てから行くのもいいのかもしれません。
古舘
先生
あとは見る機会があれば、裏方さんの機材とか、機材の裏側の写真とかも。
東
機材の裏側は僕が趣味で撮っていただけの時がありましたからね(笑)。「先生、ラインアレイがめっちゃ繋げられてますよ!」って。
古舘
先生
スピーカーね(笑)。すげーテンション上がってるな、って思いながら見てました(笑)。
東
日本代表の清水邦広選手(パナソニックパンサーズ所属)への取材では、どういうことを聞こうと思っていました?
古舘
先生
「ビーチバレーを経てから、インドアの堅い床は怖くなかったですか?」「インドアからビーチに行って感じた違い」とかですね。清水選手の場合は「インドアに戻った」という点を一番聞きたくて。砂から戻ってきて、インドアと違った成長をした点とか。
東
視野の話とかされてましたよね。
古舘
先生
聞こうと思ってたわけじゃなくて、なんかそんな話になったんですよ。
東
清水選手の取材も雑談が多かった印象があります。
古舘
先生
こっちはざっくりした質問だけ持っていって、その回答からさらに膨らませる感じですね。
東
普通にトークを楽しむ感じですか?
古舘
先生
緊張してて楽しめないですよ……(笑)。
東
僕はシンプルに「アスリートの話が聞ける!」って、無邪気に楽しんじゃいましたけど。
古舘
先生
大事なことだと思います。雑談って難しいし、楽しく雑談できるって凄いと思います。
東
清水選手も、雑談の中でビーチのトーナメントで全然勝てなかった話とかしていただきましたね。「改めてバレーボールの楽しさに気付いた」「競技者としてのレベルが上がっていくことが楽しいと気付きました」とも仰ってました。
古舘
先生
インドアからビーチにいって、またビーチからインドアにいって。レベル1から始まるからでしょうね。
東
及川が言っていたことにも重なりますね。 あとは、資料写真の撮り方って、誰からも教わらないじゃないですか。連載で使うトレス用の資料写真もたくさん撮りに行かれたと思うんですが、撮影のコツとかあるんでしょうか?
古舘
先生
「全角度を撮る」ですね。まず立った状態で撮って、次にしゃがんで撮って、それから左右からも撮ります。
東
上と下、アオリ(対象物を下から上に向かって見せる構図)とフカン(対象物を上から下に向かって見せる構図)と横打ちで、360度をあるポイントから撮るってことですね。ポイントの位置はどこからですか? 客席ですか?
古舘
先生
本当は全部撮りたいので、コートに立たせてもらえる時はコートの真ん中とエンドラインとか、ネット際、あとは四隅からとか、できる限り全部ですかね。
東
僕のイメージでは、古舘先生の撮影はアオリ構図が多い印象です。よく片膝ついて撮っているなと。
古舘
先生
そうですね。
東
「バレーなので高さのある角度にしよう」という意図で、必然的にそのアングルが増えるのかな? と思っていたんですが、街中の描写でもアオリが多いじゃないですか。それは何か理由があるんですか?
古舘
先生
うーん…単にアオリが好きなんですよね(笑)。だからみんな自分が好きな角度で撮ったらいいと思いますよ。自分がカッコイイと思う角度で。
東
プロのカメラマンが人物を撮る時は、足が長く見えるようにアオリの構図が多いそうですが、漫画的にも映える構図なんでしょうか? 街中でただ立っているだけでも、アオリだとカッコよく見えそうですけど。
古舘
先生
街中だったら、上半分が空のほうが単純に描くのが楽ですよね。視界が全部人と建物だとメリハリがないけど、境目があったほうが構図的にもカッコいいかなって。
第2回へ続く