東
資料写真はどうやって管理してましたか? 膨大な数があると思うんですが、整理するコツとかありますか?
古舘
先生
コツ、教えてほしいです。毎回全部のデータから探し回って、ホントに効率悪いなあ、と思いながらも整理する時間がなくて。一応、「○年春高」とか年代別に分けていますが、春高だけでも大量にあって。描きたい構図と似た写真があるかな?って、結局毎回全部見るんですよ。それで途中から「3階」「2階」「廊下」「放送席」「実況席」「サブアリーナ」「応援席」「3階からコート」とか、そういう分類にしましたけど、ただ普通に分けただけですね。しかもそういう分類分けにしたのは、だいぶ終盤からだった(笑)。
東
確かに先生が必死に背景写真を探している様子を、何度か見た憶えがあります(笑)。
取材で現地に行かずにバレーボールの参考資料を集めることもあると思いますが、どういうものが参考になるんですか?
古舘
先生
「漫画でやったらカッコよさそうなもの」です。
東
具体的に何かありました?
古舘
先生
ビーチバレーは、砂で風を読むやつ。写真で見た時に「これ、絶対やろう」って思いましたね。
東
それは雑誌で見たんですか?
古舘
先生
そうですね。砂をまいて風を読んでる写真がどこかにあって、風の名前も含めてめちゃくちゃカッコよかった。
東
「縦風」とか「横風」とかですね。ハッタリが効いてます。
古舘
先生
ビーチバレー自体が新鮮だったからかもしれませんけど、バッドサイド、グッドサイドとか、言い回しも分かりやすかったですね。
東
ビーチバレーは新規で取材することも多かったですよね。当時はビーチバレーの専門誌(のバックナンバー)がネット上に残ってなくて。
古舘
先生
集めていただいて、ホントに助かりました(笑)。
東
そういう手間のかかることは担当に頼んでください、ということで(笑)。
選手や写真以外、たとえばバレーボールの戦術や用語のアップデートには、どのように対応していたんですか?
古舘
先生
用語は『バレーペディア』という、むちゃくちゃ頼りにしていた本がありました。バレーの用語って、統一されてないものが多くて、用語は主にこの本を基準にしていましたね。YouTubeも見てましたし、月バレ(月刊バレーボール/日本文化出版)もだいぶ参考にしました。
それと、日向がビーチをやるきっかけになった2対2をした宮城県1年生選抜強化合宿があったじゃないですか。あれは『ハイキュー!!』を読んでくれていた指導者の方が送って下さったDVDが元になっています。今の世界基準のバレーを説明しながら、2対2の練習をやるという。これは頂き物でしたけど、基本は市販の雑誌や書籍などでこと足りますね。
東
特に雑誌は毎月更新されていきますしね。しっかりトレンドを抑えにいくから、雑誌で取材したものを参考に原稿に落とし込んだり、ですか。
古舘
先生
そうですね。あとは、普通に試合を観ることも大事です。
東
ちなみに、「今まさにバレーをしている人」から見た時のリアリティというのは、どれくらい意識していました?
古舘
先生
むちゃくちゃ気にしてました!
東
スポーツ漫画を描くうえでは、プレイヤーからどう見えるかはやっぱり大事ですか?
古舘
先生
うーん…それは最初にリアリティから来る面白さを優先するのか、漫画だから出来る面白さを優先するのか、どちらに決めるか次第でしょうね。
東
先生は以前、「サーブが火を吹く作品を描けるなら、そのほうが凄い」とおっしゃっていました。
古舘
先生
(笑)。もしリアリティを捨てたほうが面白くなるのなら、仮に経験者の人に怒られても気にしないほうがいいと思います。まぁ、面白くないとダメですけど(笑)。
東
面白くないとダメなのは、リアルに寄せても同じことですよね(笑)。
古舘
先生
それは全てにおいてそうですね(笑)。
東
『ハイキュー!!』は質感、実在感、生の手触りが、新人作家さんのスポーツ漫画より数段秀でていると思います。そういう作品に昇華するためのポイント、工夫はありますか。たとえば「エアーサロンパスの匂い」とか。
古舘
先生
「エアーサロンパスの匂い」は、自分が経験していたからがあるかも。高校の時の近くにあった体育館がエアーサロンパスの匂いだったんですよ。たぶん大会中とか、学生があちこちで着替えたりしてるとその匂いがするんでしょうね。
ただ、その匂いがする体育館はそこくらいでしたね(笑)。仙台市体育館も、東京体育館も、墨田区総合体育館も別にそういう匂いはしなかったです(笑)。
東
「エアーサロンパスの匂いはしないんです」って話になっちゃってますけど…(笑)。
ちなみに、リアリティラインを崩さないように気を付けていた点はありますか?自分が感じたのは、すべての登場人物に対して真摯というか、役割を押し付けたりしないことが大事な印象です。もちろん、「この人はこのポジションに」という運用はあっても、その人そのものには嘘をついてないから、行動が変だなと思うことがないんですよね。
古舘
先生
「その人がそれを本当に言うか」どうかは大事にしていますね。一見、普通のことのようにも思えますけど、意外と「これ言わせたでしょ」って感じちゃう事あるじゃないですか。
東
限られたページ数の中で話をまとめるために、「ここでこいつにこう言わせないと、話が終わらないよ」という場面はどうしても出てきてしまうと思うんですが。
古舘
先生
長い連載になると、「この人がこれ知っててくれないと面倒くさい」みたいなこともありますね。難しいです。『ハイキュー!!』だと解説者たちがこっちの事情を知らないゆえに「面倒だな」ということはありました。
東
そういう時でも、解説という立場では知り得ないはずのこと、学校の内部事情にやたら詳しいみたいな描き方はしない、ということですか?
古舘
先生
そうですね。それが冷たく聞こえたとしても、読者はそれぞれの学校にドラマがあったことを知ってるわけだから、解説者に対して優越感がありますよね。全部を知ってるのは読者だけで、読者が「オレ、それ知ってる」ってなるのは、けっこう大事。
東
キャラや学校に肩入れしてきた読者だからこその感想ですね。
古舘
先生
解説に「そうじゃねーんだよ、こいつはなあ…」って(笑)。上手く感情移入できると、読んでて楽しいですよね。
第3回へ続く