【第5回】コマ割りは、大きいのも小さいのも限界を探すところから 『ハイキュー!!』古舘春一先生に聞いてみた

『ハイキュー!!』には印象的な構図やコマ割りが盛り沢山ですが、実は読者の視線の動きもすごく考えられていて…

2021/10/21


編集者 東

『ハイキュー!!』は、見開きのレイアウトがめちゃめちゃ上手いと思うんです。

古舘
先生

あざーす!コマ割りとかですか?

編集者 東

コマ割りもそうですし、構図もです。どうやって決めてるんですか?

古舘
先生

『バクマン。』でもやってましたけど、ネームに起こす前に、文章で「ここからここまで何ページ」というのをまず区切るんですが、その段階である程度はコマ割りとか構図を考えています。でネームにする時に具体的に大きいコマをどこまで大きくできるかを探ります。大きいコマはできるだけ大きく。そうでないコマは小さく。両方をいいとこどりしようとするとのっぺりしちゃうので。

編集者 東

メリハリをつけなきゃいけないから、ですね。

古舘
先生

あっちもこっちも目立たせよう、ってなったら差がつかないから。

編集者 東

作家さんによっては大きく見せる勇気がない人、小さなコマを捨てる勇気がない人どちらもいると思うんです。

古舘
先生

昔、初代担当の本田さんにけっこう言われました。「コマにメリハリを」って。やっぱり描く以上は両方見てほしい、ってなっちゃうんですよね。だって見開きのところをわかってもらうためには助走のところも見てもらわなきゃダメじゃん、って。

編集者 東

他の新人作家さんと同じように試行錯誤してたんですね。それからどうやってメリハリ効いたコマ割りができるようになったんでしょう?

古舘
先生

大きいのも小さいのも、限界を探します。まず小ささの限界を決めて、次に大きさの限界を探って……。これはもう感覚ですけど、これは小さすぎるなとか、まだいけるとか、何度もいじって。構図はとにかく描いてみて決める。
今、デジタルで作画すると「便利だな」って思いますね。回転や拡大縮小がすぐできる。でもアナログの時は、描いてから、もうちょっとこうしたほうがいいってコピー用紙に描き写して、コピー用紙から写してもう一回描くんですよ。それを何度もやってました。あとは、キャラのフォームや構図はカッコよく描けたけど、ボールがコマに収まらないということもけっこうありましたね。で、またコピー用紙からトレスして回転させてながらボールもちゃんと収まる構図を探す(笑)。あと、真正面のような構図で「勢いがないな」と感じても、角度を変えると決まったりするんですよね。

編集者 東

しますね。鴎台戦、最初の日向の速攻や、「空中戦の覇者である」は印象的でした。

古舘
先生

ああ、真下からの。あれは締め切りの日の朝になってから描いてて、あそこの天井はスタッフさんが全部「筆之助」って筆ペンで描いたんですよ。急いで描くときはあれが一番早いらしくて。これ全部筆ペンで描いたんだ、すげえ!って。

編集者 東

すごい絵でしたね。

古舘
先生

スタッフさんありがとうございます(笑)。いつも作画時間はギリギリだったんですが連載の最後あたりはいい絵が入ってよかったです。

編集者 東

時間もありましたしね。Vリーグに入ってからは結構すごいですよね、毎週とんでもないことをしていて。

古舘
先生

これは構図というより、視線の持って行き方ですかね。

編集者 東

視線誘導も『ハイキュー!!』はスゴいですよね。ボールを追っていくとカッコよく見える。

古舘
先生

これはサーブですけど、垂直に打ち下ろしているように見えるから勢いが増すじゃないですか。で、2コマ目のレシーブで勢い良く上がったボールを追うと影山の手が待ってる。そこで勢いが止まってスローモーションのようになって、またボールを追って行くとロメロが待ってて「ヤバイ決められる!」てなる。

編集者 東

ワンハンドでセッティングしているから、ボールのベクトルが上に行くってことですね。また5コマ目の日向の隠し方が絶妙なんですよね!

古舘
先生

……日向いる?

編集者 東

そういうシーンじゃないですか!

古舘
先生

あ、そうだった(笑)! ほかにも上手いこと隠したのありましたよね。あっ、星海をブロックするところ。

編集者 東

「小さくて見えなかった」のところですね。

古舘
先生

あとは、たとえばこのページだと、右上から左上、右下から左下のように読んでもいいし、スマホで読むみたいに、右上から右下、左上から左下の順で読んでもいい。

編集者 東

両取りの配置になっているということですね。視線誘導はものすごく大事ですよね、特にスポーツは。

古舘
先生

そうですね。ページを行ったり来たりすると、読んでいてストレスになる。そこで試合の流れも、没入感も消えちゃう。

編集者 東

Vリーグ編以降は「スマホの読者にも対応しよう」というのが前提であって、WEBで見た時も綺麗に見えるような見開きにしてるんですよね。

古舘
先生

できる限りは、ですけども。完全に見開き横一枚絵で描いてるものは、さすがにスマホでも横画面で見てるかなと思っていたら、親戚の中学生がそうじゃなかったんですよ。中学生がそうじゃないなら、多数の人もそうじゃないのかも、って。

編集者 東

僕もスマホで最初に見る時は、縦画面でページ単位で見て、見開きのときはページを行ったり来たりします。

古舘
先生

そういう読み方でも繋がるように。本でめくるよりは見やすいですし。

編集者 東

今はまだ、紙とスマホ両方にレスポンシブルな構成を考えるよりは、まずは見開きでカッコいい見せ方にするのを優先した方がいいんでしょうか?

古舘
先生

そうですね。将来的には編集さんに「紙と電子版、どっちが売れてますか」って聞いて、電子版が勝った瞬間に電子に向ければいいんじゃないですかね(笑)。

編集者 東

見開きを派手に見せたい時はどう意識していますか?

古舘
先生

それもメリハリな気はします。淡々としたコマ割りから、ここぞ!というところで大胆なコマ割りにする。奇抜な画面も、続けてやっちゃったら見辛いだけだし。あと絵の得意な分野の違いですかね。無理に奇抜なコマ割りとか構図にしなくても、画力が高い人であれば、シンプルなコマ割りの方が絵が生きるだろうし。その人の強みを活かすのがいい。描いたことのない構図をいっぱい描いてみてもいいと思います。

編集者 東

そうは言っても、サラッと描ける人はそんなに多くないと思っちゃいますが……。

古舘
先生

チャレンジ(笑)!

編集者 東

古舘先生は自分が描ける手札を増やすために、参考にしたものはありますか?

古舘
先生

さっき話したアオリの構図が好きなのは『ONE PIECE』の影響が大分あると思います。人物にパースを付けているじゃないですか。あれは完全に影響を受けていますね。あとは『エヴァンゲリオン』の、不安な気持ちにさせる俯瞰の構図とか昔真似していっぱい描いた記憶があります。映画でも、意味なくその構図になっている、って事無いと思うんで、参考に…とは思いますが、好きなやつをただいっぱい観たらいいんじゃないですかね。

編集者 東

それで言うと、僕が印象的だったのは鴎台戦ですね。ノドの所に樹海というかツタが描いてあるカット。ネームの時は右ページ下段に普通のコマで入ってたんです。ただ、ここが初めて単体のブロックからチームの印象へとツタモチーフを使い方を広げるシーンだったので、より印象を強くしたいですねという話をしたら、古舘先生が「どうにかします」と。それで、原稿を見たら「すごい、どうにかなってる!」って。

古舘
先生

その辺はネームで「出口がない」って言ってるけど、全部作者のことだから(笑)。鴎台戦の出口が見えないっていう(笑)。

編集者 東

原稿取りのタイミングで「すごい!」って。縦方面にぶち抜いたおかげで鬱蒼感が一層増していました。

古舘
先生

鴎台戦だと、これもなかなか自分としてはよくできたところですね。

まず大きい一コマ目は、前のページまでの騒々しさ・圧迫感とのギャップで静かさを出したかったので、かなり引きの画で、空間が目立つようにしています。その為に、ただ原稿を縦に割った以上に縦長のコマが欲しくて、隣のページに食い込むくらいナナメに割りました。あと、静かでもスピード感が死なない為のナナメです。その次の中央の続き小さいコマは上からでも下からでも読んでもいいようにしてあって。

編集者 東

真ん中は、時間経過がないからどこから読んでもよくて、左右の大ゴマだけ読んでもらえればいいんですよね?シンプルに旭さんがボールをプッシュして鴎台のブロックを越えた、ということだけが伝わればいいんだけれど、そこにナナメの演出の型を加えて、という。

古舘
先生

そうですね。ただ、頑張って珍しい構図を追求した結果、読みづらくなっちゃったら本末転倒だし、一番のストレスになります。

編集者 東

確かに。

古舘
先生

読みやすさと目を引く構図、両方立てないといけないのが難しいところではありますけど。

編集者 東

ストレスがないって、本当に大事ですよね。ジャンプに載ると本当にたくさんの人が読むので、わかりやすさ・読みやすさは本当に大事だと思います。もし編集の立場で、連載前の読切版『ハイキュー!!』を見るとしたら、どういった指摘をします?

古舘
先生

そうですねえ…増刊版はよく出来ているんじゃないですか(笑)? この日向で描けと言われたら厳しいですけど、これはこれで迷いなく描けていたんじゃないでしょうか。
あとこの全部ナナメ平行になってるコマ割りを「カッター割り」と名付けてるんです。

これは広告デザインの仕事をしてたときに、デザイナーから上がってきたデザインがめちゃくちゃカッコよくて。内容は「布団大特価!」みたいなやつだったんだけど全部平行、斜めに割ってあるのがかっこよくて衝撃的で。それがめちゃくちゃ心に焼き付いていて。その時の布団のチラシをコマ割りの演出として、そのまま使ってます。

編集者 東

なんでカッターなんですか?

古舘
先生

カッターの刃あるじゃないですか。

編集者 東

ああ、なるほど。刃の重なり方が。

古舘
先生

平行になっているのがカッターっぽいな、と。ちなみにハイキューではスピード感を出したい時、とくにプレーのリズムがスムーズな時に良く使っています。逆に、相手のプレーに揺さぶられたり、余裕の無さを出したい時は、互い違い?のガチャガチャした斜めのコマ割りにしています。

編集者 東

裏話ですね! でも自分がカッコイイなあと思ったレイアウトとかをちゃんと記憶しておくことは大事ですよね。

古舘
先生

そうそう。それは本当。映画の構図なども含め、いっぱい観るに越したことはないですね。

 

第6回へ続く

  1. 【第1回】取材は雑談が大事
  2. 【第2回】「漫画でやったらカッコよさそうなもの」を参考に
  3. 【第3回】物語を優先すると戦術に矛盾が生じる
  4. 【第4回】たどりつきたい絵を決める
  5. 【第5回】コマ割りは、大きいのも小さいのも限界を探すところから
  6. 【第6回】キャラクターはボケかツッコミか
  7. 【第7回】現実の人は参考にしない
  8. 【第8回】キャラは大事だけどスタートでなくてもいい
  9. 【第9回】『ハイキュー!!』にイヤなやつがいない問題
  10. 【第10回】「ここに向かって来たんだな」という作品を

古舘春一先生 Furudate Haruichi

漫画家。2008年第14回JUMPトレジャー新人漫画賞で『王様キッド』が佳作受賞。2012年〜2020年、週刊少年ジャンプで『ハイキュー!!』連載。

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