東
古舘先生は、キャラクターを出す時は最初にスターティングオーダーのキャラクターデザインから入るじゃないですか。そのあとはどうやって中身を作り上げるんですか?
古舘
先生
面白いリアクションをする人を探すみたいな。「これセリフとして面白いな」とか「こういう反応する人はいなかった」ってキャラを見つけたらその路線で行くを掘り下げていく感じです。
東
ということはリアクションを考え始める時点で、複数の選択肢があるんでしょうか?
古舘
先生
選択肢があるというか、セリフを考えるのと同じように作るんですよ。とにかく既存キャラとかぶらないように意識して。
東
それは連載の初期は選択肢が多くても、終盤は残ってないですよね。その中でどうかぶらないように工夫されるんですか?
古舘
先生
最初はボケかツッコミか、ですね。
東
なるほど!
古舘
先生
心の声がある奴なのか、ない奴なのかとか。例えば、木兎はモノローグが一切ないじゃないですか。あとは何も決まっていないところからキャラが立ったのは天童ですね。
東
何も考えていないところから天童が出てくるのはすごいですね(笑)。
古舘
先生
たぶん、天童は最初に見た目を考えながら、ムードメーカーでおふざけ要員、というざっくりしたイメージが最初にあって。3年生というのもあって五色をいじったりとか。大枠はそういう感じで、あとは白鳥沢は個人の強さ尊重主義みたいな感じなので、ブロックはゲスブロックを使うことにして。そうするとゲスブロックの性質的に「勘でやる」という、ちょっと一匹狼&変わり者っぽい感じが出てきて。それと「ゲス」という言葉が響き的に「下衆」っぽいな、という(笑)。そこはまあ偶然ですけど、それでそのブロックのプレースタイルと合わさって、ちょっとクセが強い部分が強まって。となると、この人だけはウシワカにズケズケ言えそうだな、と。そこでかなり確立された感じですね。ウシワカと絡んだ時に個性が発揮されるから、特に目立つんですよね。
東
牛若との関係性が、白鳥沢の中では唯一違いますよね。渡り合えてるというか(笑)。それはバレーの実力ではなく、人としてですし。
古舘
先生
波長が合っているような感じになるから。まあでもそれは、他に個性が強いキャラがいる前提ですけど。強いキャラがいて、それにリアクションをどう返すか。そうすると周囲のキャラクターが作りやすいんです。よく使われる手法ですけど。
東
キャラを立てるうえで「関係性が大事」とはよく言われますね。そのキャラとの間に、お互いどういう感情の矢印が結ばれているか。
古舘
先生
だからキャラ考える時はもう1人いる前提で、その人とどう会話するかというのを考えながら作ると、できるんじゃないですかね。 そういえば、描きながら及川を「ちょっと大物感あるな」と思ったセリフがあって。小さいコマなんですけど、ブラジルで日向とビーチをやった時に、「今までレベル上げをしてきたやつを一回横において、また1から始めるのは辛くないかい?」って聞いて、日向が「でもレベル上げ楽しいです」っていうやりとり。そのページは「レベル上げ楽しいです」が大ゴマなんですよね。主人公っぽいセリフじゃないですか。でも、普通の人のリアクションだったら、そこでハッとすると思うんですよ。そこが日向の、ちょっと大物っぽいところというか。このシーンではそれほど怖さはないですけど、日向は異様さが特徴でもあるので、そういうところにビックリしたり、おののいたりするのが普通のリアクションじゃないですか。でも及川はその時に、「自分に言い聞かせてない?」と問いかけていて。
東
言ってましたね!
古舘
先生
すごく小さいコマなんですけど、及川の日向にビビらない感じというか、影響されない感じが大物感ありますよね。まあ大人になったというのもありますけど。
東
冗談とまではいかなくとも、いじれちゃうってことですよね。
古舘
先生
日向自身も、ちょっとは言い聞かせていた部分はあるんですよ、弱気になってるし。
日向が精神的に落ちている状態で自分を励ますために言っているという要素も若干あって。それを見抜ける洞察力が、及川にはある。そういうわずかな反応で、「あ、こいつなかなかやるじゃん!」と思って。描いたあとから「この人はこういう感じか」ってなる場合もありますね。
東
難しい感覚ですよね。古舘先生の中に確固たる及川の人格があって、それとは別の古舘先生が捉えた及川がいるわけじゃないですか。そうでないと起き得ないですよね。
古舘
先生
確かに。その考え方でいくと、さっきの「このキャラはコレを本当に言うか」を精査するという話とは矛盾してきちゃいますね(笑)。
東
キャラが勝手に言ってるんですから(笑)。作家さんの脳内でどういう処理がされているのか不思議です。
古舘
先生
まあでもやっぱり一回言ってみて「ありだな」とか「なしだな」って判断するしかないですよね。
東
「キャラがある」「キャラが立っている」って、先生的にはどういうことだと思います?
古舘
先生
なんだろう…。読み手が想像するものとちょっとズレたリアクションをするとかですかね。ボケとツッコミを作ったら、わりと作れるとは思うんですよね。みんなけっこう、ボケとツッコミじゃないですか。木兎と赤葦とか、まあ後半では赤葦もちょっとしたボケという感じになっちゃいましたけど。木兎と周りか。天童も割とツッコミ気質だし。
東
牛島はボケですからね。
古舘
先生
そうですね。やっぱり一人でそのキャラにキャラ付けしようとするよりは、会話のほうが作っていきやすいですから。「キャラが立っている」というのも、リアクションする時に普通だったら驚くような場面でも全く動じないとか、ルフィだったら首を斬られそうになった瞬間に笑うとか。
東
なるほど!日向が「まだ負けてないよ?」って言うところもそうですよね。
古舘
先生
そうそう。愛想笑いでごまかさないで、きょとんとした表情で。
東
本気で「この人たち何言ってるんだろう」ってことですよね。ボケとツッコミも、相手がボケということではなくて、誰かと組んだらボケになる、と。
古舘
先生
日向と影山だったら、日向がツッコミじゃないですか。けど、日向と澤村だと日向がボケになる。
第7回へ続く