――漫画家を目指す人に必要な心構えや、大事にするべきだと思うものはありますか?
甲本
先生
運と才能とハートです。
――その割合を「10」で割ると、ご自身の配分はどのような感じでしたか?
甲本
先生
僕の場合、「10」のうち運が「8」くらい(笑)。運、努力はめちゃめちゃでかかったと思います。運と元からの才能はもう上昇することはないので、あとはハートで勝負ですね。努力だけが自分で唯一どうにかできる。でも報われるかも分からない中で努力を続けるにはハートが必要。結局、メンタルの強い人がいちばん強い気がします。
――では「もうダメだ。漫画家になれないかも」と思ったときは、どうやって切り抜けましたか?
甲本
先生
受け入れて、ダメでもやるしかない。僕は周りの友だちがちゃんと働いていたので、それを見て自分を奮起させていました。
――2年で連載開始と順調に進み、ご両親や友だちの反応はどうでしたか?
甲本
先生
両親は喜んでくれましたし、驚いていたと思います。友だちは「すごいね!」みたいな感じだったかな。僕が「漫画家になる」と会社を辞めたときは、無謀だと言う人も中にはいましたけど、だいたいの人はみんないい人で、応援してくれました。
――連載をつかむために、いちばん活かせたなと思う経験はなんですか?
甲本
先生
子どもの頃に読んだ少年漫画ですね。自分が少年だったときに漫画を読んで得た感動を、今度は自分が子どもたちに伝える。大人になってから少年漫画を読んでも、面白いんですけど、子どもの頃のような興奮は得られない。小・中・高と、漫画をたくさん読んできてよかったなと思いますね。
――いちばん血肉になったのは『ボーボボ』ですか?
甲本
先生
『ボーボボ』と『ワンパンマン』ですね。あの二作は衝撃でした。web版の『ワンパンマン』にハマりすぎて、勉強がおろそかになって英語のテストで赤点を取ったこともありますから(笑)。
――ほかに血肉となった漫画を教えてください。
甲本
先生
『金剛番長』や『金色のガッシュ!!』『うえきの法則』も好きでした。「サンデー」の漫画もよく読んでいましたね。
――社会人経験があってよかったと思ったことはありますか?
甲本
先生
現実を知れたことですかね。
――どういう「現実」でしたか?
甲本
先生
社会人って、死ぬほど働くじゃないですか。僕の前職はブラック気味だったので、土曜出勤もあって週に50~60時間ほど働いた。いままで漫画家を目指してきて、週に50~60時間も漫画の制作に充てたことがなかったので、これだけの時間を全力で費やしたら、なんとかなるんじゃないと思って。学生のときは、漫画家を目指しているといっても片手間というか、そこまで本気でやっていなかった。
――覚悟も違いましたか?
甲本
先生
学生時代に投稿していたときと、社会人を経てから漫画家を目指す本気度はぜんぜん違いますね。僕は退職後、現役の高校生たちに混ざって画塾にも通っていました。当時23歳くらいでしたが、同じ教室の他の生徒にため口をきかれたりしながら(照)。
――ほかにも、漫画家を目指すためにやっていたことはありますか?
甲本
先生
本を読んだり、映画を観たりしていました。この業界に入って分かったのですが、僕、映画や本をぜんぜん知らなくて。だから映画は「毎日1本観る」と決めて観ていたし、本や漫画も改めて読み返しました。
――社会人を経て漫画家を目指す人に、おすすめの本や映画はありますか?
甲本
先生
『「感情」から書く脚本術』は勉強になりました。ほかの脚本術の本は、三幕構成を提唱していて、その通りにやらなきゃいけないのかなと思って頭がごちゃごちゃになりそうだったのですが、この本はシンプルでいちばん参考になりました。あと広告の本ですが『アイデアのつくり方』もよかったです。この二冊はおすすめですね。
――社会人をしながら漫画家を目指している人と、社会人を辞めて目指している人に、それぞれアドバイスをお願いします。
甲本
先生
やりたいなら、やるしかねえ!ですね。でもちゃんと社会人をやれているなら、それに越したことないと思います。仕事をしながら漫画家に挑戦して、タイミングがきたときに離職すればいいと思います。もう会社を辞めちゃった人は、期限を決めて死ぬ気でやるしかない。期限を決めるのは大事だと思います。一度社会人になっている時点で、ある程度自分のことを冷静に俯瞰できていて、どちらかと言えばズバ抜けた才能のあるタイプじゃないと自覚していると思います。そういう人は、期限を決めて自分を追い込んだほうがいいと僕は思います。
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