第5回は新人作家さんがもっとも悩むポイント「オリジナリティー」「個性」について。いったいどうやって獲得するのか?生まれもったものだから天才以外はどうしようもないのか?それとも…?
東
セリフ力にも関係する話で、編集部が漫画賞ツイッターで質問箱をやっていて、「自分のオリジナリティーがわからない」という質問がよく来るんですが、松井先生にとってオリジナリティー・個性とはなんですか?
松井
先生
うーん…よく自分の作品はオリジナリティーがあるとは言われますが、「人と同じことをやりたくない」なんて、みんな思っているはずなんですよね。逆に、たとえば流行りジャンルがあってそれに乗っかると言う気持ちが全く信じられないし、それをやるくらいならやらないほうがマシと思うくらいだし、どちらかというと才能ではなくて考え方、プライドの話だと思うんですよ。
東
松井先生の、商売やお客さんに対するスタンスと真逆な気がしますね。商売っ気というか「流行っていることをやったら売れるんじゃないか」という人と、逆に「いま流行っているものがあるなら、そうじゃないもののほうが絶対ブルーオーシャンだからやろう」というアプローチをする人がいるのだと思います。
松井
先生
商売については考えていたんだけど、なんでか乗っかる方向にはならなかったですね。ただ昔から流れに乗っかるのがうまい人はずっといて、それは漫画に限らずですけれど。自分は流れに乗っかる才能がめちゃめちゃないなとは全てにおいて自覚していたんですよ。みんなと話をしていても全然ついていけないし、流行物をとてもいいと思えないし、むしろ流行っているから背を向けたくなるし。それは自分の弱点の裏返しですね。
東
弱点ですか。
松井
先生
「流れに乗る才能がないなら、流れを作るしかない」とは強く思っていました。センスでも才能でもなく、考え方です。その考え方を持ち続けていればオリジナリティーなんて自然に鍛えられるものだし、じゃあオリジナリティーを出すにはどうしたら良いかと聞かれたら「人とかぶるものは恥と思って、本当にどうしようもない恥だけ、どうしても外せない恥だけ採用しよう、なるべく人とかぶるのは避ける。ジャンルが一個かぶっただけでちょっと嫌な気持ちになるくらい」と答えると思います。
東
先天的な才能ではないので、考え方・感覚を鍛えよう…と。
松井
先生
感覚ですね。それを磨くにはどうしたらいいか…うん、とにかくかぶっていたらやめる(笑)。だから自分が持っていったネーム数はめちゃめちゃ少ない方だと思うんですけれど、それはかぶるものは出していないからなんですよ。調べたりして。
東
なるほど。既存の作品にないネタを探していくと、自然と絞られていってしまうから…
松井
先生
今、名前が売れたからある程度人とかぶっていても気にせず突っ込んでいけるけど、昔は何者でもないので、ちょっとでもかぶった時点で自分は非常に不利だとわかっている。かぶったら勝負にならないんですよ。それは自分の弱さの裏返しです。かぶらないものを探す、ブルーオーシャンを探すしかない。だから探し慣れているんでしょうね、ある程度は。
東
『逃げ上手の若君』も、かぶらないと言う意味ではジャンプでは30年ぶり位の史実物ですね(笑)。
松井
先生
そのかわり、めちゃめちゃ勉強が必要です。かぶらないのは、めちゃめちゃ大変だから先人たちがやってないわけです。南北朝時代なんて特に。(笑)
東
といっても、いきなり完全オリジナルは難しいので、新人作家にはいろいろとベースになりそうな既存の作品を提案はするのですが、松井先生がお手本にした漫画などありましたか?
松井
先生
昔は『ジョジョの奇妙な冒険』だったんですが、今は全然残っていないですね。それ以外のものがガンガン増えて。まぁいっぱいありますよ。
東
原体験としては『ジョジョ』ですか
松井
先生
そうですね。ただ、お手本にしたというか、意識を変えさせられた、漫画ってこんなにも面白いことができるんだ!というほうが正確ですね。
東
新人作家さんは、今読んでいるものからどんなふうに吸収したらいいでしょう?
松井
先生
難しいですよね、何を感じ取るかって。『ドラゴンボール』とか『ONE PIECE』に影響受けた人はめちゃめちゃいましたが、自分はそうではなかったし、自分に合ったものから受けるのが一番です。
たとえば、いまだに『ジャングルの王者ターちゃん』(徳弘正也先生)でお手本にしているのはギャグとストーリーのバランスであったり、ちゃんと終わらせるとかなんですが、でもそういうことって人それぞれが感じることで、僕がこれお手本にしてこうしましたって言われても、それを人にお勧めすることもできないんで。