――漫画家を目指すうえで、いちばん大切なことはなんだと思いますか?
白井
先生
私の結果論ですが、まず「編集さんが言っていることが理解できる目を身につけましょう」。そこがないと、いつまでたっても同じところをグルグル回って努力の意味がないというか、正しい努力ができていない状態になるので。そのゴールというか、正しくここを目指せばいいんだというものがわかるようになったら、「自分の強みは何か」を突き詰める。それを最大限に出力できるようになったら強いと思います。
――白井先生ご自身の強みは、なんだと思いますか?
白井
先生
どんでん返しが、人よりは多少、うまく返せる、というのが唯一の強みでした、『約束のネバーランド』連載当初は。でもそれだけでは「ジャンプ」では生き残れないので。今は、人間のえぐみとかに普通に突っ込んでいくのは自分の強みの一つかなと思いますね。そこをやる人はあまりいないし、やったとて、違うかたちになる。私がこの世に生み出すものとして、生み出した漫画を、白井カイウの白井カイウなりのかたちにできるのは、そういう部分かなと思います。
――社会人経験を経てから漫画家を目指すことの強みは、どこにあると思いますか?
白井
先生
「作品」ではなく「商品」という視点を持っていること。それは会社に勤めていなくてもできるとは思うのですが、自然に、前の仕事で教えていただいていたことから、その視点が役に立っているので、ありがたいなと思います。あと、さきほどの自分の強みではないですが、エントリーシートってめちゃくちゃ大事だなと。あれができていると、漫画の分野でも強いなと思うので。結局どの業界でも自分の強みが何かわかっていて、それを最大限に出せる人って強いじゃないですか?あのエントリーシートを何社も書いた経験を経て、今それがわかるというのは、普通の就職をしてきたからっていうのもあるかなと思います。
――エントリーシートを書くことって、自分を客観視する経験ですよね。
白井
先生
当時の自分は浅いエントリーシートしか書けなかったし、その大事さもちゃんとわかっていなかったと思うんですけれど。
――社会人経験を経て20代後半くらいなると、深みのある話が作れるようになりますよね。
白井
先生
ただ年をとれば、社会人経験を経れば、深みのある話が作れるようになる、とは思いません。が、年をとって、経験のバラエティが増えてくると、その分「使える手札」が増える、という利点はあると思います。漫画に使える経験の種類や、思考の数が、増える、という意味です。もちろん、それらを莫大な想像力で補える、若き天才もいると思います。でも、私は天才ではありませんので、私が今、漫画原作者としてやっていけている根底には、少なからず、「経験の手札」の恩恵は受けていると思う。私が人生の前半でしてきた数々の選択は、一般的に「漫画家になる」ための最良の選択群からは、外れていたり、遠ざかっていったりするものが多かったと思います。でも、その選択によって出会った人たち、進んだ大学で学んだこと、就職先で培ったこと、どれ一つ欠けても、私は今ここに立っていません。私が通ってきた道のすべてが私の漫画に活かせていますし、活きています。ダメダメだった投稿時代も同様です(笑)。「できるようになるまでは、そこにあるのは失敗だけ」って言いますけど、本当に、これできるようになるのかな、って自分でも心配になるくらい失敗しか重ねていなかったですからね。周りからはただの無職にしか見られていなかったですし。
――白井先生にもそういう時期があった、というのは漫画家を目指す人たちにとって励みになると思います。「私も今そんな時期だ」と思う人もいると思いますし、漫画家を目指していいんだと背中を押してもらえると思うので。最後に、社会人から漫画家を目指すみなさんに、同じ境遇を経た白井先生から応援のメッセージをお願いします。
白井
先生
定収入は素晴らしいです。何作描いても微塵も届かなかった日々も、何百ページ描いたとて1円にもならなかった日々も、昨日のことのように覚えています。だから「ほら~、おいでよ」とは軽々しく言えません。でも、本気でやる気があったなら、たどり着けない場所では決してありません。「自分はどんな漫画を描けるのか」、自分にならできること、自分にしかできないことを突き詰めてください。才能はゼロでなければ、いくらでも育てられると思います。漫画をつくる“目”を手に入れて、自分の強みを理解し、それを最大出力できるようになれば、道は開けます。いっしょにがんばりましょう!
社会人漫画賞大募集中!