【第2回】作品を良くするための話し合いであれば幸せ 『ぼくたちは勉強ができない』筒井大志先生に聞いてみた

ジャンプで描くようになって、筒井先生は漫画の描き方をどんなふうに変えていったのでしょうか?

2022/01/27


編集者 石川

石川

ジャンプで描くようになって、編集者からの指摘やアドバイスで新鮮だったものはありましたか?

筒井大志

筒井
先生

「読みやすさ」についてはめちゃくちゃ指摘されました。細かく言ってくれる編集さんって、他誌で描いていた時はあまりいなかったんですよ。それまでは、掲載枠をもらったら原稿をあげて渡す…で終わっていて、こっちもそれが当たり前という感覚でした。「面白くするためには、漫画家がちゃんとしないとダメなんだな」と。それがジャンプだと「このページのコマ割りの、ここが読みづらいのでこうしたほうがいいです」というレベルから言ってくれる。色々細かく言われるのは嫌という作家さんもいるし、それは人それぞれで良いと思うのですが、僕にはすごいありがたかったです。

編集者 石川

石川

編集者によって指摘の細かさはもちろん違いがありますが、読みやすさは、ネームにのめり込んでいる作家さんだとなかなか自分では気づけないので、編集者がお役に立てる部分だと思います。具体的にどんな指摘がありましたか?

筒井大志

筒井
先生

たとえば、『ぼく勉』の連載会議に出した時のネーム。僕は縦ゴマ(縦に長いコマ)を多用していたのですが、「読みにくいです」と言われて一掃しました。縦ゴマの長所短所を考えずに使っていたせいですね。あとフキダシの位置の視線誘導とかも、それまで感覚でやっているところが多かった。そこを初代担当の齊藤さんから経験則に基づいた理論を教えてもらって、すごい勉強になったんですよ。

編集者 石川

石川

ジャンプは色々なヒット作家さんや歴代の編集者の知見を編集部全体でも蓄積し、今描いている・これから描こうとしている作家さんに還元していこうという意識がありますね。企画の立て方とか、読みやすさとか、キャラクターメイクなどさまざまな部分で。

筒井大志

筒井
先生

縦ゴマって、キャラの全身を見せるのに都合がいいんです。そういう意味でも多用していたのですが、齊藤さんに「縦ゴマでさらにセリフも多いと、目線が上下して読みづらいです。情報を詰め込むのに縦ゴマは基本不向きですよ」と指摘されて「これは駄目だったんだ」と初めて知りました。こういった「自分を変える機会」はなかなかないんですよ。自分はいいと思って描いているので、視野が狭くなるんですよね。「誰にも言われないから、間違っていないんだ」と考えてしまうんです。だから、地力がある作家さんなのに失敗してしまう場合って、軌道修正してくれる人がいない不幸もあると思います。直す機会に恵まれないというか、「ここは良くない」と言ってくれる壁がないと、間違ったまま進んでしまう。壁は成長する機会なんですよ。もちろん指摘されて嫌な気分になるかもしれませんが、あくまで作品を良くするための話し合いであれば幸せだと思います。

編集者 石川

石川

ジャンプの連載は、厳しいですが人気次第ではすぐ終わってしまうんですよね。読者に受けるかどうかは最終的には運の要素が大きいけれど、作家さんが力を出し切るためにも、運以外の要素は全部排除しよう!とはよく先輩からも言われます。

筒井大志

筒井
先生

そのスタンスはすごい感じました。編集さんはここまでネームを見てくれるんだ、と。衝撃的だったのが、1話で横にコマが連なる部分で、フキダシの位置を「このフキダシはここに、これはここに移動しましょう。だいぶ読みやすくなります」と相当細かくチェックしてくれたことです。そんなの意識したこともなかった。

編集者 石川

石川

絵はすごく頑張っているのに、フキダシの位置が悪かったり、キャラの顔や大事な絵にかかっているせいで読みづらくなっちゃうケース、よく見かけます。

筒井大志

筒井
先生

あと、パースついた奥行きのある構図をこれでもかと多用してたのですが、それも「もう少し減らしましょう」という話をされました。思い返すと、あれは結局作家のエゴなんですよね。奥行きのある絵って、描くのが大変なわりに読者からするとキャラの位置関係や距離感が伝わりづらいから、下手に使うと読みづらいと思われてしまうんです。漫画はそのエゴとの戦いが多いんじゃないでしょうか。特に大多数の読者に向けた雑誌だと、エゴだけの漫画では駄目なのかなと…。

※前作「IDOROLL」と「ぼくたちは勉強ができない」の比較。『部屋で二人きり』というシーンを見比べると、シンプルなフキダシ配置や構図になっている。

編集者 石川

石川

その「エゴ」とはどういう意味か、もう少し教えていただけますか?

筒井大志

筒井
先生

描くからには「俺はこんな難しい構図、難しいアングルだって描けるぞ」となって、無駄にパースを効かせまくった絵を描いてしまう。そのコマで何を伝えたいかというと「俺は上手い」だけで、漫画としては実は意味がない…(笑)。でも作家の気持ちとしては分かるし、やってしまう。それをきちんと指摘して頂けるのはありがたいですね。

編集者 石川

石川

エゴはあってもいいけど、行き過ぎてはいけないという。

筒井大志

筒井
先生

その頃に齊藤さんに言われた「作家としてすごいと思われたいのか、漫画が面白いと思われたいのか、どちらですか?」という言葉が印象に残っています。そう言われると確かに後者なんですが、やっぱりはき違えてしまうんですよ。「自分は漫画を描いて生きていく!」と決めた時、どれだけ力が秀でているのか見せないと…という強迫観念が生まれてくるんです。そうしないと生き残れないと思って。でもジャンプという大舞台で勝負するには、それだけでは駄目なんですよね。あくまで作品がどうなのか?から見られる。

編集者 石川

石川

描いてあることや面白さが読者に伝わらないと、やっぱり商業の漫画で戦うのは難しいですよね。バランス感覚はあって損はないと僕も思います。

第3回へ続く

  1. 【第1回】ジャンプに来て、それまで当然だと思っていたことが全部覆った
  2. 【第2回】作品を良くするための話し合いであれば幸せ
  3. 【第3回】ジャンプのアンケートは面白い
  4. 【第4回】色々と描いてきたことが今に繋がっている

筒井大志先生 tsutsui taishi

漫画家。2008年、『月刊コミックブレイド』(マッグガーデン)にて『エスプリト』で連載デビュー。2014年~2016年、少年ジャンプ+で古味直志先生『ニセコイ』のスピンオフ『マジカルパティシエ小咲ちゃん!!』連載。2017年~2021年、週刊少年ジャンプで『ぼくたちは勉強ができない』連載。最新作は『夜雨白露は殺せない』(「ジャンプGIGA 2021 AUTUMN」掲載)

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