石川
ジャンプは連載決定から開始までが、他の雑誌よりはけっこう早いんですよね。それについてはいかがでした?
筒井
先生
『ぼく勉』って新連載6本の内の1本目でしたから、特に早かったですよね?連載会議が12月で、1話の締切が1月下旬くらいだったような。
石川
他の雑誌では、「連載は決まってもいつ始まるか決まっていない」こともありますよね。筒井先生は、すでにデビューされていて仕事場も道具も完備していたから6連弾(「ぼくたちは勉強ができない」「U19」「ポロの留学記」「腹ペコのマリー」「Dr.STONE」「ROBOT×LASERBEAM」の順に連載)のトップバッターだったのかと思われます。
筒井
先生
僕としては、もちろん早く始まってくれた方がありがたいです!
石川
普段の締め切りよりさらに早かったそうなので、連載経験作家さんでもさすがに大変だったかと思います。特に連載1話なんて50ページ以上あるじゃないですか。でも筒井先生は最初、1話どころか3話分の原稿をまとめて提出されたそうですが…
筒井
先生
『ぼく勉』は1話が54ページで、2話が25ページ、3話が23ページでしたっけ?最初の3話で100ページくらいなんですよね。 1話の締切がだいたい1ヵ月後ということなので、そこで3話まで出そうと思って。
石川
その時のスケジュール貯金で進行に2週間くらい余裕があって、結局連載終了までずっと残っていましたね。
筒井
先生
最初は確か3週間巻いていたのですが、途中で気が抜けてインフルエンザで倒れて1週使ってしまったんです。
石川
齊藤さん曰く、「連載していれば絶対に途中でスケジュールが崩れる時が来ると思ったので、最初に貯金を作っておこうとかなり先行したスケジュールでお願いしたのですが…まさか最初の貯金をほとんど使わずに終わるとは」とのことでした(笑)
筒井
先生
最後まで残しても仕方ないので、カラー原稿とかに使いましたね。
石川
同梱版20巻&最終21巻の合体カバーとか、ごっついカラーを描いて頂きましたよね。これで巻いていた貯金を使い果たしたんでしたっけ?
筒井
先生
いえ、結局1週間分は使わずに終わりました(笑)。
石川
週刊連載を経験された作家さんが、少し執筆ペースを落とせる月刊に行かれることはよくあります。でも筒井先生みたいに、月刊連載から週刊連載に行くケースはあまりないのですが、その点はいかがでしたか?
筒井
先生
最初はすごい怖かった。月刊では毎月60~70ページ描いていたんですが…。
石川
いやいや、その時点でかなりのハイペースです(笑)。
筒井
先生
それが週刊になると月に80ページくらいですよね。そこにカラーとかイレギュラーの仕事もあったりして。自分のマックスは70ページだと思っていたので、かなり厳しいかと覚悟していたら…意外と大丈夫でした(笑)あと月刊の時はお金がなかったので、アシスタントさんも月に3~4日しか入ってもらえず、仕上げも全部自分でやっていました。それが『ぼく勉』だと週に3日もアシスタントさんが入ってくれるので、これなら何とかなるかな、と。
石川
すごい、歴戦の勇士みたいな…(笑)。
筒井
先生
アシスタントさんに仕上げを全部お任せできるようになって、だいぶ楽になりました。最初は怖かったのですが、きちんと作業用の仕様書を作ったのが良かったのかも。連載始めるときは仕様書、お勧めです。
石川
ちなみにお金の話で恐縮ですが、連載が始まってどれくらいで「お金に余裕が出てきたなぁ」という意識が出てきましたか?
筒井
先生
どうだったかな? まず、『ぼく勉』前の『小咲ちゃん』が大きかったですね。単行本1巻が発売してすぐ10万部を超えて、すごい嬉しかったことを覚えています。それまでは大体初版1万部いくかどうか、2万部いけばすごい、くらいだったので。その感覚を壊してくれたのが『小咲ちゃん』です。
石川
それは嬉しい驚きですね!
筒井
先生
単行本であんなにお金が入ったことがなかったので。だから『小咲ちゃん』の単行本が出た時点で、ある程度お金に余裕は出てきたと思います。その蓄えがあったから『ぼく勉』の初回からアシスタントさんをお願いすることができて、1巻が出る頃には心配はなかったですね。
石川
この間、家を建てられたじゃないですか。それでもまだ手元には余裕はありますか?
筒井
先生
家は半分くらいは現金で払って、残り半分はローンを組んでいるので、ある程度残しています。
石川
もう1本作品をヒットさせて、もう一軒いきましょう(笑)。
筒井
先生
家は一軒でいいです(笑)。
石川
意外と知られていないのですが、ジャンプで連載すると海外版の印税や、ジャンプ自体のライセンスが運用されたスマホゲームでの使用料とか、漫画を描いていない状態の作家さんにもお金が入る仕組みがあります!
筒井
先生
僕は今、仕事をしていない状態ですけれど、それでも毎月何だかんだで海外版や電子版などの売り上げが入ってきてありがたいです。時々、「これ何だっけ?」ってお金も振り込まれています。たまに「これ、桁を間違えていない?」とかも…(笑)夢があります。
石川
ちなみに筒井先生がジャンプ関連で一番嬉しかったことは何ですか?
筒井
先生
まずは『ぼく勉』がジャンプの連載会議を通ったことです。漫画を描き続けていてもなかなかヒットできず、親も心配していたので、初めて漫画家として堂々と親孝行できると思った瞬間でした。あとは要所要所の出来事も嬉しいですよね。単行本が出た時とか。確か『ぼく勉』の1巻は、最初は初版がそこまで多くなくって「ジャンプから出たけれど、まだそれくらいなのか…」と思っていたら、発売したその日に大きく重版がかかって。あとアニメ化も!初めての経験は全部嬉しかったです。毎週のアンケートも、良ければ嬉しいし、ダメだったらすごいへこむんですけど…(笑)。それも含めて、毎週きちんと「戦っている」感じが嬉しかったですね。
石川
週刊誌ならではのフィードバックですね。
筒井
先生
ジャンプのアンケートは面白いですよ。やったことがすぐ結果に出るのは気持ちいい。自分がいいと思って描いたことが良かったり、逆にそれが悪かったり。週刊ペースで仕事の結果がつまびらかにされていくことは、なかなかないと思います。それは他の職種でもそうで、やった結果を見ることができない仕事って、けっこう多いですよね。
石川
そう言っていただけるとホッとします。WEB漫画だと掲載日だったり連載ペースだったりで、各作品の前提がそもそも違いますからアンケートの取り方もなかなか難しい。バズる漫画が正しいかというと、いろんな要素が絡むぶん受け取り方も迷います。
筒井
先生
面白い面白くないって、何の言い訳もきかないじゃないですか。だから僕はジャンプのアンケートシステムは好きですね。
石川
ちなみに筒井先生から、ジャンプで変えて欲しいところはありましたか?他と比べた上でのご意見があれば、ぜひ。
筒井
先生
変えてほしいところというか、個人的に毎回すり合わせが必要だな、と感じていた部分はあります。仕様上仕方がないことなのですが、ジャンプの紙はやはり完全な白ではないので、原稿作成時(※筒井先生は線画までアナログ、仕上げはデジタル)と誌面印刷時の印象が変わってしまうことはしばしばありました。「照れ」を表現するほっぺのトーンなどが紙だと濃くなってしまったり、飛んでしまったり。女の子の可愛さにも直結してくるので、雑誌での仕上がりを見据えて細かく計算して描く、というスキルが自然に培われましたね。(笑)
石川
実際の印刷の仕上がりを見て、毎週「自分の絵がこうなっている、次の回はこうしよう」とチューニングできるのも週刊の良さではありますよね。
筒井
先生
試行錯誤がメチャクチャしやすいんですよ。それは絵的なことばかりではなく、話作りも手探りでいけるのが強いです。月刊連載だと掲載して1ヵ月待って、それで1ヵ月経って読者の興味が薄れたところから作るので。やっぱり週刊連載がいいですよ!僕は今、週刊連載の日々が恋しいですね。仕事したいです!週刊連載をしていた時も、年末年始の2週間が空くだけですごい自堕落な感じがしていました。
石川
筒井先生の漫画家人生は、仕事をしていない期間が実はほとんどないんですね。
筒井
先生
月刊連載がない時期でも読切を描いていましたから。早く次の連載を決めて週刊に戻りたいです!
第4回へ続く